MAGIC(作:文月)第1章 松葉敏久
第1章 松葉敏久
「松葉先輩って今、彼女いますか?
もしいなかったら私と付き合ってもらえませんか?」
年が明けて卒業まで3カ月を切ったとき告白された。
◆ ◇ ◆
「敏久~
お前、昨日2年の子に告られてフったんだって」
教室に入るなりクラスメイトの公平が話しかけてきた。
誰にも言ってないのにこいつの情報網はどうなってるんだ?
公平の発言にみんなが近寄ってくる。
「前も1組の子フってたよな」
「今回はどんな子なんだ」
野次馬がふえてくる。
「文化祭の実行委員会で知り合った子だよ」
何故か公平が答える。
小学校からの幼馴染みで公平には隠し事は一切ないとは言えここまで俺の事を詳しいのはどうなんだ?
それよりもお前ら、まず朝は「おはよう」だろ。
◆ ◇ ◆
「でも何で敏久って誰とも付き合わないの?
結構モテるだろ?」帰りの電車に揺られながら公平が不思議そうに聞いてくる。
「俺は初めて付き合った同士でそのまま結婚したいんだよ。
お互い恋愛経験なく付き合って成長して結婚してからエッチするのが理想なんだよ」
公平とは今まで恋愛話しなんてしたことなかったからいささか気恥ずかしさもあったが正直に答えた。
「敏久らしい考えだけど何でそう思うようになったんだ?」
さらに公平が尋ねる。
「俺の父さんと母さんが初めて付き合った同士で未だに仲良いからそれに憧れがあるんだろうね」
そう言うと公平が続けた。
「確かに仲良いよな。
俺の母さんがスーパーで敏久のおじさんとおばさんが買い物してるのをよくみかけるらしいよ」
と話しながらペットボトルに口をつけたので「仲良すぎてたまに部屋から喘ぎ声がきこえてくるからそれは勘弁してほしいけどな」と言うと公平は吹きこぼしそうになるのを堪えながら笑っていた。
少し落ち着いた公平は真面目な口調で「もし好きな子ができてその子がほかの男を好きだったらどうする?」と質問してきた。
「公平だったらいいけどほかの男だったらさっさとまた理想の子を探すよ」
そう言うと公平は笑いながら
「俺はモテないから逆はあってもそれはまずないよ。
まあもうすぐ卒業だし大学でいい出会いがあったら嬉しいけどな。」
そんな事を話しながら残り少なくなった高校からの帰り道を通った。
◆ ◇ ◆
4月も半月が過ぎ、新たな生活にも少しずつ慣れてきたが相変わらずこの朝の通勤、通学ラッシュの時間の電車は高校のころから慣れる気配がない。
俺の右隣にはやはり公平がすわっている。
小学校からの腐れ縁は大学でも続きそうだ。
今日は何だか機嫌が悪そうなので尋ねると「お前が寝坊したおかげで遅刻しそうになって駅まで走ったのが原因だ」と言われてしまった。
今日、木曜は1限からどうしても出席しないといけない講義のため急ぐのだがこんな時に寝坊してしまった。
「お互いに高校まで真面目にずっとバスケやってきて体力には自信あったのに引退してから運動してないから駅まで走っただけでバテたよな」
気を反らすためにそんなことを公平に話しかける。
そのころには2人とも息も落ち着いてきた。
時計をみると7時38分、電車が停車した。
この駅の次が大学の最寄り駅だ。
また沢山の人が乗ってくる。
その時、乗車した女性に目を奪われた。
可愛い子をみると公平と「あの子可愛いな」なんて話したりもするが、そんな話しをする時間すら惜しいとおもえるほどだった。
長くキレイな黒髪、俯きがちで物静かな雰囲気、彫刻や絵画から飛び出してきたようなまるで、彼女だけが別次元のような美しさだった。
ビルの間から彼女を照らすように差し込む日射しは彼女だけがもつ華やかなオーラを纏っているようだった。
今までに、経験したことのない感情。
遅刻しそうになって駅まで走ったときの脈拍の上昇。
いや、落ち着いたはずなのにその時以上の脈拍だった。
駅に到着するまでの15分はただ彼女に見とれていた。