MAGIC(作:文月) 第3章 稲本玲
今日は朝から雨が降ってる。
電車を待ってるわずかな時間とはいえ、梅雨が近付いてきたこの季節はジメジメしたイヤな気分になる。
電車に乗るとそんな気分を消してくれる人がいた。
増田公平君と松葉敏久君。
電車に乗ってきた私を笑顔で迎えてくれて私も自然と笑顔になる。
二人は大学に入ってすぐ風邪ひいて休んでいたから馴染めなかった私に初めて声をかけてくれた人。
高校までは男の子と全然話したことなかったのに二人とは初対面の時から自然と会話ができた。
◆ ◇ ◆
「玲ちゃんって高校で何か部活やってたの?」
雨で人が少ないのかいつもより比較的簡単に席を確保できた食堂で公平君が尋ねた。
以前、二人がバスケをやっていたことは聞いたが私自身のことを話していなかった。
吹奏楽部で仲の良かった子といつも一緒にいた事や、修学旅行でスキーに行った事とかを話した。
今まで自分のことを話そうとはしなかったけど不思議と二人には私のことを知ってもらいたいと思うようになってきた。
◆ ◇ ◆
昼前の講義が早く終わったから食堂で場所取って公平君、敏久君を待っていたら突然、後ろから声をかけられた。
驚いて振り向くと声の主は同じ学部の加藤君だった。
彼とは何回か挨拶したくらいで話したこともなければ声をかけられたのも初めてだった。
「稲本さんって公平、敏久といつも一緒にいるけど二人のどっちかと付き合ってるの?」
予想外の問い掛けに戸惑っていると
「もしよかったら今度遊びにいかない?」と誘われた。
異性に誘われるなんて初めての経験で何て返事すればいいか迷ったがとっさに
「私、地元に彼氏いるんで無理です」と嘘を返してしまった。
すると彼は二、三言会話をかわし去っていった。
加藤君と入れ替わるかのように講義を終えた二人が来た。
加藤君と話していたのを見ていたのか尋ねられたので誘われた事、嘘ついて断った事を正直に話した。
その夜、男の子と手を繋いで歩いてる夢を見た。
夢の中の私はニコニコしてとても嬉しそうだった。
相手の顔はぼやけてよく見えなかったが目が覚める瞬間におぼろげながら見えた顔は私がよく知っているいつも見ている彼だった。
◆ ◇ ◆
また、彼の夢を見た。
最近は頻繁に見るようになった。
夢を見た翌日は大学で顔を合わせるのが気恥ずかしく感じてしまう。
こんな気持ちは経験したことがないからこそ彼のことが好きなんだと実感した。
「話したいことがあるから講義終わったら食堂まできてくれませんか?」
彼にメールをして待っている間にどうやって話しすればいいか頭に思い描く。
講義が終わり、何人かが食堂に入ってきた中に姿を見つけた。
「お待たせ」
敏久君がそう声をかけながら席に座る。
いつもなら公平君も一緒だが急にバイトが入ったらしく先に帰ってしまった。
むしろ、公平君がいないからこそ呼び出すことにした。
「話しって何だった?」
買ったばかりのジュースで喉を潤して敏久君が尋ねた。
私は心の中で自分に落ち着けと言いきかせるように一呼吸おいて話しだした。
「あのね、私公平君のことが好きになったの」