MAGIC(作:文月) 第2章 正体
第2章 正体
駅についてまず、ゆっくり深く息を吐き出してから電車を降りた。
胸の高鳴りが落ち着き、大学行きのバス停へと歩きながら公平に話しかけた。
「電車の中にいた子めちゃ可愛いかったな」
公平も彼女に気付いたようで
「本当に可愛いかったな。
あの子も一緒に降りたけど看護大の子かな?」と答えた。
俺逹の大学の隣に看護大があるため女の子が多かった。
大学に着いて教室に入ると教授がいて講義の準備をしていた。
教室の後ろのドアが開くと思わず反応し、振り返ると彼女だった
「さっきの電車の子だよな?」
公平が小声で呟く。
疚しいことはないのに不思議とこうゆうときは小声になる。
俺も「先週の講義はいなかったよな」小声で答える。
彼女が気になって講義も全く頭にはいってこないまま終わってしまった。
俺逹は2限目も同じ教室のため移動する必要なかったが、どうやら彼女も移動する気配がなかった。
俺が話そうとするよりも早く公平が動いた。
「先週の講義っていなかったよね?」
彼女は突然の問い掛けに戸惑いながらも答えた。
「先週は風邪が長引いてずっと休んでました。」
「じゃあ2限目の資料ないよね?貸そうか?」
俺も話しかける。
「ありがとうございます。もしよければ、お昼休みに見せてもらえますか?」
彼女からのお誘いに断る理由がない。
二つ返事で答えて2限目が始まった。
昼休みが楽しみで2限目の講義も頭にはいってこないまま終わってしまった。
◆ ◇ ◆
待ちに待った昼休みになり、俺達3人は食堂へと移動した。
移動中、すれ違いざまに何人か振り返って彼女をみていた。
そんな彼女と一緒に歩いているだけで誇らしい気になった。
食堂はかなり混雑していたがなんとか、席を確保することができた。
「急に話し掛けてごめんね。驚いたよね?
増田公平っていいます、よろしくね。」
また、公平が話しを切り出した。
俺は人見知りをしないが、それ以上に公平は人とすぐに打ち解けることができるので少し羨ましくおもう。
「松葉敏久です、よろしくね。もし、他にも一緒の講義があったら資料見せるからね。」
名前を告げると、彼女が口を開いた。
「稲本玲です。先週ずっと休んでしまってたので困ってたところでした。ありがとうございます。」
彼女、稲本玲は緊張を隠せないといった表情で話した。
◆ ◇ ◆
玲と会ってから、1週間が過ぎた。
木曜以外にも同じ講義を受けていたので何回か会話した。
最初は、敬語だった玲も少しずつだが、タメ口になった。
7時38分、電車が停まり玲が来た。
玲は、俺と公平に気付いて小さく手を振って来た。
その仕種の愛くるしさに思わず顔がにやける。
「増田君と松葉君ていつから友達なの?」
食堂で不意に玲が尋ねる。
「小学校に入学した時に番号順で俺の前に公平がいて自然と仲良くなって気付いたら同じ高校、同じ大学に来てたよ。」
俺が答えると
「2人はラブラブなんだね。」
冗談まじりに玲が笑う。
「そんなことないよ。敏久が一方的に俺に片想いしてるだけだよ。」
「増田君は好きじゃないの?」
玲がさらに尋ねる。
「俺にはハナちゃんと言う心に決めた子がいるんだよ。」
「ハナは家のネコだろ。お前に大事な娘はやらん」
そんな2人の会話に玲は笑ってくれた。
「稲本さんの学校からは何人この大学に来たの?」
今度は俺が尋ねる。
「私以外では5人だったかな?
ただ、学部が違うし、高校でもほとんど話したことない子だから今話せるのは増田君と松葉君だけだよ。」
そんな玲の言葉がうれしかった。
◆ ◇ ◆
ゴールデンウィークが終わり久し振りに玲と会った。
1週間しかないわずかながらの休みだったがこんなに人に会いたいと思ったのは初めてだった。
玲と会ってから1ヵ月がたった。ほぼ毎日のように昼休みを3人ですごしている。
この日も食堂ですごしていると、同じ学部の同級生が「公平、敏久、昼からの講義なんだけど、急にバイトがはいったから代わりに出席とっといて~。今度ジュース奢るからお願いね。」俺達に告げて走り去って行った。
それから5分としないうちに「公平、敏久、久し振り。大学はいってから初めて会うんじゃないの?」今度は同じ高校で違う学部に入学してきた女の子が話し掛けて来た。
そんなやり取りを見ていた玲が口を開いた。
「増田君と松葉君てすごいよね」
「何がすごいの?」
公平が不思議そうに尋ねた。
玲は言葉を選びながらゆっくり話し始めた。
「友達が多いし、誰とでも分け隔てなく接するから尊敬するよ。
2人みたいな人になりたいな。
私ね、人見知りで引っ込み思案だから中学、高校と友達が多いほうじゃなかったのね。
むしろ、この長い黒髪で周りからは暗くて、地味って思われてたの。
だから、大学入ったら変わろうと思ったんだけどなかなかできずに、未だに増田君と松葉君以外の人と話したことないし、本当は、2人の事も名前で呼んでみたいと思っても馴れ馴れしいって思われたらどうしようとかすぐにマイナスな事ばかり考えちゃうの。」
玲が話し終えると公平が反論した。
「それって、悪い事なの?
捉え方次第で変わるんじゃないかな?
分け隔てなく接するって言うと褒めてるけど、ただ八方美人なだけとも考えれるし、
3人で話してる時も明るく話してくれるし、暗いんじゃなくて、
今までは、明るく振る舞う機会が少なかっただけだよ。」
公平の言葉に玲は俯いて若干涙声になりながら、「ありがとう」と呟いた
「俺達が玲ちゃんに話し掛けたのは、困ってる人を助けたいとかじゃなくて純粋に仲良くなりたいと思ったからなんだよ。」
俺も正直な気持ちを打ち明けた。
「今、玲ちゃんって言った?」
玲は驚いた表情で顔を上げた。
「だって、俺達のことを名前で呼んでみたいと思ってくれたんでしょ?
だったらお互い名前で呼び合いたいな。」
そう告げると玲は1つ深呼吸をして
「公平君、敏久君、ありがとね。」
と、名前を呼んだ。
「どういたしまして、玲ちゃん。」
俺と公平の声が被った。
すると、玲は、また俯いてしまった。
「どうしたの?」
問い掛けると
「男の子を名前で呼ぶのが初めてだから、恥ずかしいけど嬉しいね。」
照れた表情をしながらも笑顔で話す玲を見た時確信した。
1ヵ月前、初めて電車で玲と会って、ずっと見とれていた事
今まで経験したことのない感情が湧きあがった事、
胸の高鳴りが止まらなかった事、
その全ての正体が解った。
俺は稲本玲が好きだ。
もっと俺の事を知ってもらいたい。
もっと玲の気持ちを知りたい。